ADT【ADT】銘柄分析_警備会社の米国大手!

米国株の年次決算書・銘柄分析
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今回はエー・ディー・ティー(ADT Inc / ADT)の決算書(10-K)やニュースについて分析しました。クロの判断は以下の通りです。

  • 安定性(資金繰り)
  • 収益性
  • 経営の効率
  • 成長への期待

それでは見ていきましょう。

1. エー・ディー・ティー(ADT)について

1-1. 業種

ネットワーク&通信、セキュリティ関連、商業サービス

1-2. 事業の概要

エー・ディー・ティーは、監視・セキュリティサービスを提供する企業です。
140年以上の歴史を誇る米国大手の警備会社で、センサーなどを利用したスマートホーム機能を多くの消費者、企業へ提供しています。家屋への部外者の侵入検知だけでなく火災や一酸化炭素の検出なども行っており、プランの中には個人情報の盗難防止パックなどもあります。
ネットワークIoTに強く、家の様子を出先からスマートフォンで確認・ドアロックなどを操作したり、Alexaとの統合も可能なソリューションを提供しています。

1-3. チャート

エー・ディー・ティーの株価チャートはこのようになっています。
2020年8月にGoogleと提携する旨の発表があり、一時的に株価が急上昇しています。

2. 決算書(10-K)の分析

2-1. 経営の安全性(資金繰り)

  • 流動比率、当座比率、固定比率は安心できない数値
  • 自己資本比率もあまり良くない
  • キャッシュフローはまずまず

2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率

2019年決算書におけるADT貸借バランス

(単位:百万ドル)

貸借バランスは”不安タイプ”です。
(貸借バランスのタイプ判断については、こちら↓の記事にて紹介しています)

圧倒的に固定資産・固定負債が多く短期の負債の返済にかなり不安があります。
流動比率は過去4年間概ね50%程度で、当座比率は約30%しかありません。
一時的に現金の多かった2018年も流動比率が約80%、当座比率が約60%だったので、流動負債が多い状況が続いてしまっています。

固定比率は、2018年に約390%、2019年には約490%となっています。この結果はかなり不安です。
2018年は純資産の3.9倍、2019年には純資産の4.9倍の固定資産を持っており、これらの購入・維持において純資産で足りない分は、負債に頼っているということだからです。

(貸借対照表の数値を使った比率計算は、こちら↓の記事で詳しく紹介しています)

2-1-2. 資本の比率

自己資本比率は、過去4年間ずっと20%前後で推移しています。
つまり残りの約80%は、負債に頼っていることになります。

非常に低いとまでは言いませんが、あまり良い数値ではありません。

2-1-3. キャッシュフロー

本業を含む営業活動のキャッシュフローは最終的にプラスになっています。これは本業での損失に対して減価償却などによるプラス要素が大きいためです。

過去数年を含めて投資の割合が大きく、営業活動と同じくらいの比率の年もあります。
また2019年は長期借入金の収入・返済が大きな金額となっていますが完済には至っておらず、貸借対照表での長期債務額は減っていません。
他にも2019年は株主への配当や株式の買戻しで700百万ドルのマイナスとなっており、財務活動の割合がかなり大きな年となりました。

営業がプラス、投資がマイナス、財務がマイナスという組み合わせだけなら「安定タイプ」と言えますが、内訳まで見るとあまり安心はできません
(キャッシュフロー計算書を見る際のポイントや判断基準はこちら↓の記事で詳しく紹介しています)

2-1-4. 項目まとめ

自己資本比率はまずまずですが、流動比率、当座比率、固定比率の低さが不安な結果です。
キャッシュフローはまずまずの結果ですが、投資の割合が大きい状態が続いているため、これが売上や利益に結び付かないと資産と負債のバランスは改善されないでしょう。

ただし、2016年に投資ファンドに買収されているため、すぐに経営が危なくなることはないと考えます。これから改善されていくことを期待します。

2-2. 収益性

  • 売上高は増加を続けている
  • ROE、ROAともに伸び悩んでいる
  • 臨時的な要因があるため、黒字の2017年が良好とも言えない

2-2-1. ROE(自己資本利益率)

ADTのROE(自己資本利益率)推移

2017年に一度黒字になっていますが、その後は再び赤字になってしまっています。
売上は毎年上昇しているのですが伸び率が鈍化しており、一方で売上原価、販売管理費などの費用額は増加しています。

また、2017年は収入となる税の優遇が約750百万ドルあったことがかなり影響しています。

2-2-2. ROA(総資産利益率)

ADTのROA(総資産利益率)推移

ROEと同様に赤字、黒字の年があります。

2-2-3. 項目まとめ

赤字の年が多く、収益性はあまり良くない結果です。
2017年は黒字ですが、本業と関係ない臨時収入の割合が大きいため、黒字は一時的なものでしょう。
2018年と比べると2019年は少し数字が改善しているようにも見えますが、赤字の3年分の数値に大きな差が無いため、伸び悩んでいるように見えます。

また、2019年にはカナダの事業を売却し、約100百万ドルの損失が発生しています。事業・組織の立て直しと見ることもできますが、不安な要素です。

2-3. 経営の効率

  • 総資本回転率、固定資産回転率は不安な数値
  • 在庫が少ないので棚卸回転率はとても高い

2-3-1. 各回転率

ADTの総資本回転率、固定資産回転率、棚卸資産回転率

総資本回転率は、約0.3回転です。これは総資本に対して売上が低いことを表しています。
買収を行っているので資産が膨らんでいるのでしょうが、売上をもっと上げるか、資産の整理をしないと安心できない数値です。

固定資産回転率も固定資産を効率的に活用できていない結果になりました。固定資産が非常に多いので、これは仕方ないですね。

一方、棚卸資産回転率はとても高い数値です。セキュリティサービスという商品の性質上、在庫をあまり抱えずに経営できているのでしょう。

2-3-2. 項目まとめ

効率面は、売上高に対して資産が多すぎるという結論です。
ただ、過去4年間の推移をみると総資産(主に固定資産)が約1,000百万ドル減少、売上が約2,000百万ドル上昇しているので、少しずつ改善しています。

2-4. 成長している・していく企業か

  • 売上高は増加を続けている
  • 2017年の黒字は本業外の一時的な要因によるもの
  • 2018年から債務償還に関する損失が増加し利益を圧迫

2-4-1. 売上高と営業利益

ADTの売上高推移

売上高は4年間ずっと上昇しています。
伸び率でみると、2016年~2017年の期間に約1.5倍になり、その後は6~11%の上昇となっています。

ADTの営業利益(損失)推移

売上原価や販売管理費が増加しつつも営業利益で見ると2017年以降黒字です。しかし、支払利息に関する損失が大きく、2018年、2019年は最終的に赤字となっています。
なお、2018年より金額が増大し重要度が高まったため”債務の償還による損失”が損益計算書に記載されるようになりました。2018年以降の営業利益には、この費用を反映しています。2019年に関しては、事業売却に伴う損失も反映した金額です。

2-4-2. 項目まとめ

この数字からは成長性が感じられないというのがクロの意見です。
2017年の黒字には本業以外の要因が影響しているため、営業利益の伸び率があてになりません。
売上は継続的に増えているので、このまま増加していけば好転するでしょう。

2-5. 補足:2020.9四半期決算・2020ニュース

2020年第3四半期までの9ヶ月間の財務諸表を見ると、Googleからの投資の影響で現金が大きく増えています。
また、純損失が大きくなってしまっており、2020年も黒字決算は厳しいかもしれません。

ただ、8月に発表されたGoogleと提携するというニュースはかなり大きな期待を生みました。発表直後の急騰から、株価は再び落ち着いてしまっていますが、それでも発表前より高い価格を維持しています。
2021年に統合が拡大される予定(2020年は一部のGoogleデバイスをADT顧客に提供するのみだった)なので、今年中に何か動きがあるかもしれません。

3. まとめ

ここまで見てきた結果、クロは現時点でのエー・ディー・ティー(ADT)株の購入は見送ります
資産の流動性が低く短期の負債の返済がギリギリの印象を受けますし、総資本や固定資産の回転率も思わしくありません。(資産が膨れ上がり、それに見合う売上が上がっていない)
投資のキャッシュフロー以外、成長性を感じる指標があまりないことも引っ掛かります。

ただ、懸念点としている固定資産の大きさは、近年買収を繰り返していることも背景にあるため、いずれ成長へとつながる可能性もあります。

今回の記事はADT Incの決算書及び四半期レポート、コーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。

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