アップル(Apple Inc. / AAPL)の2021年の年間業績が発表されたので、決算分析と気になるニュースをまとめていきます。
クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待※新事業への期待はあるが
それでは見ていきましょう。
1. アップル(AAPL)について
1-1. 業種
ネットワーク&通信・サービス、電子製品、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
アップルは言わずと知れたMacやiPhone、iPadを開発・製造・販売する大手メーカーです。他にもウェアラブル製品やiPod touch、クラウドサービス、App Storeでのデジタルコンテンツの提供、ApplePay決済サービスなど、様々な事業を展開しています。
常に革新的な技術を提供し続けてきたアップルですが、以前から噂されていたVRヘッドセットやARグラスの開発について、2022年にもMR(複合現実)ヘッドセットをリリースする可能性が報道されています。
Apple carについても、公式からの発表がない中”再び自社開発に舵を切った”、”数年以内に発表されるだろう”などの様々な情報が飛び交っています。
また、2020年4月末頃のiOSアップデートで、アプリ開発者・提供者などの第三者によるユーザーの行動データの収集について、ユーザー自身が可否を選択できるように変更しました。(トラッキング許可の選択)
これによって、ユーザーの行動履歴を元に広告を掲出するターゲティング広告などを収益源とするアプリ事業者から批判の声が上がり、実際一部のSNS運営企業の業績には影響が出始めています。
1-3. チャート
アップルの株価チャートはこのようになっています。コロナ感染拡大が始まって一時は株価が下がったものの程なく回復し、コロナ前の価格をすぐに追い越しました。
現在は約150ドルの壁を突破するかどうかというところです。(2021年11月1日)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 継続して株式の買戻しを行っている
→このため自己資本が減少し、自己資本比率は低下中 - キャッシュフローは安定している
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは自己資本比率が低めの”ギリギリ運用タイプ”です。
流動比率は約110%、当座比率は約80%と少々低いですが、短期の資金繰りはひとまず問題なさそうです。
固定比率は約340%で、2020年9月期より更に高い数値となりました。昨年度よりも多額の株の買戻しを行っており、内部留保とも言える利益剰余金は更に減少しています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は18%です。
事業自体は黒字ですが、株式の買い戻しや配当などに多額の資金を投じているため、自己資本比率は低下傾向にあります。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローも安定してプラスを保っています。
iPhoneの発売タイミングの影響もあり、事業からの利益は約950億ドルありました。
そのため、営業活動によるキャッシュフローも前年より大きなプラス収支となっています。
また、毎年有価証券の購入・それによる収入を得ている他、財務活動では株式の買戻しに積極的で、2021年9月期は約860億ドルの資金を投じました。
2-1-4. 項目まとめ
短期の資金繰りは問題ありませんが、資産の流動性、自己資本比率がじわじわと低下してきています。
ただ、事業の不調による低下ではないので、あまり心配する必要はなさそうです。
2-2. 収益性
- 自己資本が小さいためROEが高い
- ROAは米国の平均を超える
- 2021年9月期は特に純利益が大きく数値が上昇
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
利益率が高く自己資本比率が低めということもあり、ROEは非常に高いです。
2018年9月期~2020年9月期は自己資本比率の低下に合わせて数値が上がった面もありますが、2021年9月期は純利益の増加によって大きく上昇しました。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
ROAは米国平均の6~8%を大きく超えています。
特に今年(2021年9月期)は利益額の増加によって大きく上昇しました。
2-2-3. 項目まとめ
元々収益性は高い企業でしたが、2021年9月期は製品の売り上げが好調で更に純利益が増加したため、非常に高い利益率となりました。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率は問題なし
- 棚卸資産回転率が高い
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は1回を超えました。総資本額と売上が等しくなる最低ラインを達成しています。
固定資産回転率は約1.7回、棚卸資産回転率は約56回です。
在庫が不要の事業もあるので、棚卸資産回転率はかなり高いです。
2-3-2. 項目まとめ
全体的に問題のない数値です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 2021年9月期は売上が前年比33%の急増
- それに伴って営業利益も増加
- 研究開発には意欲的
2-4-1. 売上高と営業利益
iPhoneやMacの売上が好調で、前年比33%の売上増加となりました。
部門別に見ると製品部門が35%の増加、サービス部門が27%の増加しています。
ここ数年売上が減少してきていたiPhoneですが、今期は第1Qと第4Qに新モデルを発売したこともあり、売上は増加しました。
ただ、そんなiPhoneも半導体不足で減産となっています。
なお、iPhoneだけでなく、Mac、iPad、ウェアラブル・アクセサリー、サービスなど、全てのカテゴリの売上が2020年9月期を上回る結果となりました。
地域セグメントを見ても全ての地域で売上は増加しており、特に中華圏では70%の伸びを見せています。
売上が増加したことに加え、為替も好影響を及ぼしました。
営業利益も大きく増加し、前年比64%の伸び率となっています。
2021年9月期は純粋な売上増加に加え、米ドルに対して外貨が強かったこともあり、粗利率が向上しました。
なお各種費用は今期も増加しています。
また、今後の粗利益については、様々なリスク要因によって、減少圧力にさらされるだろうと予測する発言がありました。
2-4-2. 研究開発費
2021年9月期の売上高は約365,817百万ドル、研究開発費は約21,914百万ドルだったので、売上高研究開発費率は6%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員の多い大企業は売上高研究開発費率が低めの傾向にあるとされ、10,000人以上の企業では3.5%が平均と言われています。アップルの従業員数は約15万4千人であり、研究開発には平均以上に資金を投じていると言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
2021年は売上が非常に好調でした。
しかし、iPhoneの発売タイミングなどが影響しているとも考えられ(2021年9月期はiPhone12シリーズと13シリーズの2シリーズの発売があった)他のカテゴリの売上も増加しているとはいえ、来年もこの売上を超えられるのか不安が残ります。
2-5. その他ニュース
■半導体不足による供給制限
半導体の不足により、iPhone13の製造を最大1000万台引き下げる見通しであると報じられています。今後の売上に影響しそうです。
■EUのライトニングコネクター規制
EUが、アップルが独自に採用しているコネクター”ライトニング(Lightning)”の規制に動き出しました。
欧州委員会で、スマートフォンの充電規格をUSB Type-Cに統一させる法案が提出されています。
■App Storeの手数料収入減少の可能性
アップルはこれまでApp Storeにおけるアプリ内課金の手数料を最大30%得ていましたが、アプリ開発者からの訴訟の末、App Store外支払い方法のユーザーへの直接告知を容認することになりました。
これにより、App Store外での課金が増加し、手数料収入が減少する可能性があります。(詳しくは↓の記事で紹介しています)
ちなみに2021年9月期通年でのサービス売上は前年比27%増加、サービス部門の原価率は34%であるのに対し、この容認が発表された第4Q(発表は8月27日)のサービス売上は前年同期比26%増加、同部門原価率は30%となっており、記事作成時点では特に大きな影響は出ていません。
3. まとめ
クロとしては、アップル(AAPL)は製品多角化(AR・VR、MRや自動車など)に期待したい銘柄ですが、今は少々不安要素が積み上がっている状態だと考えます。
アップルブランド商品の人気は未だに根強く、新しい分野での商品発売が実現できれば話題になることは間違いありません。
しかし、EUでのコネクター規格規制やアプリ内科金の手数料問題など少々気になる点もあり、今後の報道や業績には注意しておきたいです。
今回の記事はApple Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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