アップル(Apple Inc. / AAPL)の決算書(10-K)分析やニュースについてまとめました。クロの判断は以下の通りです。
- 安定性(資金繰り)
- 収益性
- 経営の効率
- 成長への期待※主力商品が頭打ち。新しい武器の開発次第
それでは見ていきましょう。
■2021年更新版はこちら
1. アップル(AAPL)について
1-1. 業種
ネットワーク&通信・サービス、電子製品、電子テクノロジー
1-2. 事業の概要
アップルは言わずと知れたMacやiPhone、iPadを開発・製造・販売する大手メーカーです。他にもウェアラブル製品やiPod touch、クラウドサービス、App Storeでのデジタルコンテンツの提供、ApplePay決済サービスなど、様々な事業を展開しています。
常に革新的な技術を提供し続けてきたアップルですが、近年はAR技術に力を入れており、ハイエンドモデルのiPhoneやiPad ProにはLiDARが搭載されています。(”計測”アプリの精度向上や更なるアプリ・機能の開発に期待)
また、以前からVRヘッドセットやARグラスの開発が噂されていましたが、最近はApple car(自動車業界への進出)について様々な情報が飛び交っており、公式からの発表が無い中でも期待が高まっています。
1-3. チャート
アップルの株価チャートはこのようになっています。コロナ感染拡大が始まって一時株価は下がりましたが、3月末頃から上昇をはじめ、現在は120~140ドルの間で上下を繰り返しています。(2021年5月21日時点)
2. 決算書(10-K)の分析
2-1. 経営の安全性(資金繰り)
- 短期の資金繰りは問題なし
- 継続して株式の買戻しを行っている
→このため自己資本が減少し、自己資本比率は低下中 - キャッシュフローは安定している
2-1-1. 流動資産・固定資産に関する比率
(単位:百万ドル)
貸借バランスは自己資本比率が低めの”ギリギリ運用タイプ”です。
しかし、流動比率は約140%、当座比率は約105%あるので、短期の資金繰りはひとまず問題ありません。
ただ、固定比率が約280%もあり、過去数年でも特に高い数値となっています。この主な要因は株の買戻しを継続して行ったことで、内部留保とも言える利益剰余金が減少したことが大きく影響しています。
2-1-2. 資本の比率
自己資本比率は年々低下しており、2020年9月末時点では20%です。固定資産の多くを負債によってまかなっている状態です。
2-1-3. キャッシュフロー
営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナスという”安定タイプ”の組み合わせで、フリーキャッシュフローも安定してプラスを保っています。
投資に積極的で毎年有価証券の購入を行っており、それによる収入も得ています。(この影響で投資活動がプラスとなる年もある)
また、株式の買戻しを行っているため、財務活動のマイナス額が大きい年が多いです。
2-1-4. 項目まとめ
資産の流動性・キャッシュフローは好調で、短期の資金繰りは問題ありません。
株式の買戻しは株主にとってとても嬉しいことですが、その影響もあり2012年決算時に67%あった自己資本比率は20%まで低下しています。(2013年から買戻しを開始)
なお、アップルの株式買戻しプログラムでは”2,250億ドルまで”承認されており、そのうち1,686億ドルが利用されています。(2020年9月26日時点)
2-2. 収益性
- 自己資本が小さいためROEが高い
- ROAは米国平均の2倍程度で更に上昇傾向
2-2-1. ROE(自己資本利益率)
ROEは非常に高いですが、自己資本の減少と共に上がったものなので過信はできません。
2-2-2. ROA(総資産利益率)
総資産から見るROAは大きな変動はありませんが、上昇傾向です。
自己資本の減少で総資産自体も3,753億ドルから3,239億ドルへ減って(2017年9月から2020年9月の比較)いますが、利益はしっかり出せています。
なお、純利益は2017年度の483.5億ドルから2020年度は574.1億ドルと増加していますが、この4年間で一番純利益が多かったのは2018年度の595.3億ドルでした。
2-2-3. 項目まとめ
ROAから、米国平均を超える利益率があることがわかりました。純利益と売上高を比較しても、利益率は21~22%を維持しています。
近年、売上高や純利益額に上下が見られますが、いまだに安定した収益性があると言えます。
2-3. 経営の効率
- 総資本回転率はぎりぎりセーフだが低め
- 棚卸資産回転率が高い
2-3-1. 各回転率
総資本回転率は約0.9回です。できれば1回を超えたいところですが、セーフと言える範囲内です。また、総資産の減少の影響もあって回転率は上昇傾向にあります。
流動資産、固定資産それぞれ約3分の1が”市場性のある有価証券”で、直接売上に関係しない資産であることも、回転率が低めの要因と言えます。
固定資産回転率は約1.5回、棚卸資産回転率は約68回です。
在庫を持たずに済むサービスも多い事業形態ということもあり、棚卸資産の回転率が非常に高くなっています。2017年に棚卸資産が急増しましたが、翌年以降は少々削減されています。
2-3-2. 項目まとめ
総資本回転率が少々低めですが、問題のある数値ではありません。
また、棚卸資産回転率は、その事業形態の影響もあって非常に高い数値です。
2-4. 成長している・していく企業か
- 売上高は増加傾向だが緩やか
- iPhoneの売上高が減少
- ウェアラブルやアクセサリー、サービス事業が好調
- 研究開発には意欲的
2-4-1. 売上高と営業利益
売上高は増加傾向ではありますが、2016年(グラフ記載なし)、2019年は前年より売上が減少しました。
内訳をみるとiPhoneの売上高が減少してきており、2020年のiPhone売上高は2017年の1,413億ドルから2.5%のマイナスとなっています。(iPhoneの売上高推移は以下図参照)
また、Macの売上も鈍化してきており、その一方でウェアラブル・アクセサリーや、サービスの売上高の伸びが大きくなってきました。
地域別に見ると日本での売上高は直近3年間でほぼ変動が無く、中華圏では減少しました。アメリカやヨーロッパでは売上高が増加傾向にあります。
営業利益も売上高と同様に増減しています。
2-4-2. 研究開発費
2020年決算の売上高は約274,515百万ドル、研究開発費は約18,752百万ドルだったので、売上高研究開発費率は6.8%となります。
科学技術・学術政策研究所によると※1従業員の多い大企業は売上高研究開発費率が低めの傾向にあるとされ、10,000人以上の企業では3.5%が平均と言われています。アップルの従業員数は約14万7千人であり、研究開発には平均以上に資金を投じていると言えます。
※1出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所科学技術指標2019
2-4-3. 項目まとめ
iPhoneなど主力商品の売上が減少していることが気になります。売上高には為替レートも影響しているようですが、何年も前から言われてきた「iPhoneは頭打ちでは?」という噂は現実となっているようです。
ただ、まだ売上高に占める割合は小さいながらも、アクセサリーやサービスの事業は成長を見せており(2019年6月には、サブスクリプションに注力するという発言もあった)、研究開発費には1年間で187億ドルを投資しました。
また、Apple carを開発中という噂もあり、数多くの特許をすでに申請しているとも言われています。
iPhoneやMacだけでの今以上の成長は難しいですが、他の分野への進出や新たなイノベーションには期待できそうです。
3. まとめ
クロとしては、アップル(AAPL)は「成長の期待はできるが、それには少し時間がかかる」銘柄だと考えます。
現時点では主力商品の成長が鈍化しており、すぐさま売上や利益を大きく拡大することは難しそうです。
しかし安定した資金があり、研究開発に積極的に投資していることから、いずれ新しい事業・商品を発表することに期待できそうです。特にApple carには様々な情報が飛び交っているので、いずれは革新的な車を見ることができるかもしれません。
今回の記事はApple Inc.の決算書及びコーポレートサイトを参考に作成しました。少しでもお役に立てたら嬉しいです。
また、記事の内容はあくまでクロの考え・判断を中心に構成されているため、投資の際はご自身の判断の上、自己責任で行ってくださいますよう、お願いいたします。
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